バリのくらやみ
そして時は2020。
全力疾走してきたよね。
これは、小沢くんの歌の歌詞。
たしかに、全力疾走してきたけれど、それはちょっとおいといて。
この歌の歌詞には、2020年とともに、25年前の「1995年」も出てくる。
それは、きなこちゃんが3回目にバリに行った年。
この年、初めてお寺のお祭りで踊ったりもしたのですが、その話も、またどこかで。
その頃からすると、まったく、バリの変わりぶりときたら!
カメラも身近になく、自分が写っている写真を見て驚き騒いでいたような人たちが、今やSNSとやらで毎日写真や動画を世界中に送っているのですから。
1995年頃のバリは、今とぜんぜん違っていました。
飛行機を降りたとたん、鼻をくすぐる甘い濃密なにおい。
これは、あとになって、お供えものの草花とお香の入り混じったにおいだと、きなこちゃんは知ったのですが。
空港から車に乗って、宿に向かう道。
とにかく、くらい。くらい。
くらくて、ときどきポツンとアセチレンランプのオレンジ色の明かりが見える。
そこに映し出される、道端に座っているバリの人。
男の人、たいていおじさん、けわしい目で一瞬こっちを見る。
それが、びゅんびゅんと通り去っていく。
宿に着いても、まだ、くらい。
足元が見えなくて、心もとない。
でも、空には、降ってくるくらいの星。
そう、きなこちゃんが最初にいちばんひかれたのは
この、くらやみでした。
南の島がすき。南国がすき。
でも、たいていの人が持っているような明るいイメージなんて、最初からなかったのです。
バリは、きなこちゃんの思い描いていた暗い南の島らしく、そこにありました。
そう、くらやみといえば、小沢くんの今の言葉。
この暗がりを抜けた先で、落ち合いたい。
2020年の今、まったく別の暗がりがある。
世界中に広がるこの暗がりを抜け出して、またあの島へ。