現実の南島 その1 八丈島廃墟ツアー
きなこちゃんが最初に訪れた南の島は、東京の南、八丈島でした。
「ん? なんだか、地味じゃない?」
「熱帯の密林とか言っていたくせに、国内だし」
「ヤシの木じゃなくてソテツって感じ」
そんな声が聞こえてきそうです。
おっしゃる通り。
でも、もちろん、これにはちゃんと理由があるのですよ。
八丈島といえば、よく知られているように、かつて罪人が島流しにされた流刑地。
昭和の時代には南国リゾートとして人気だったとも聞きますが、やっぱりどこか、明るくない、湿った気配が感じられます。
それは日本だからなのかもしれません。
とりあえず、「暗黒好き」のきなこちゃんが行く初めての南国としては、うってつけの場所!
そして、旅の目的は、『異都発掘』(荒俣宏)という本に出てきた、「竜宮城」を見ること。
竜宮城とは、島のある奇特な老人が建てたという摩訶不思議な建造物。
赤鳥居がある洞窟のような入り口から中へ入ると、広いホール。
何のために建てられたかは、謎のまま。
老人が亡くなってからは、荒れ果てて、廃墟になり、取り壊される寸前だという。
これは行かなくては!
こうして、昭和の終わり頃、きなこちゃんは黒蜜くんと、おもちゃみたいなプロペラ機に乗り、この島に降り立ちました。
あ、まだ紹介していませんでしたね。
黒蜜くんは、きなこちゃんの旅の相棒です。
これからも時々登場するので、どうぞお見知りおきを。
まず、ホテルに荷物を置いて出かけると、ホテルの裏には鉄骨が打ち捨てられている。
公園には、誰にも使われていない錆びついたブランコやジャングルジム。
島の普通の風景が、すでに廃墟。
きなこちゃん、ぐんぐん鉄骨に、ジャングルジムに登る。
竜宮城も、本で読んだ通り。
それ以上のものは特になかったけれど、実際に訪れることができただけで、
きなこちゃんはじゅうぶん満足でした。
おそらく、訪れることができた旅人はほんの少しだったでしょう。
そもそも、どうして廃墟に惹かれるのだろう。
かつてそこに暮らしていた人たち、置かれていたものたちの息遣い、気配がそこには感じられるから。
その情景の残像のような、幻が見えるような気がするから。
話は少し脱線するのですが、きなこちゃんは以前、奈良の薬師寺に行ったことがありました。
ここには東塔と西塔があって、東塔は、天平時代に建てられたもの。
塔を見上げた瞬間、ぶわーっと風が吹いて、
その時代の気配、生きていた人たちの想いのようなものが渦巻いているようで。
そして、その人たちの姿まで見えたような気がしたのです。
自分が一瞬にして1200年くらい前の人たちとつながって、高速で時を駆け巡ったような不思議な気持ちで、なぜだか泣いてしまっていました。
古い建物には、そのようなものが堆積して眠っていて、そしてときどき、ちょっとした加減で立ち現れるのでしょう。
ちなみに、昭和になって再建されたという西塔からは、何も感じられませんでした。
ところで、2020年の現在、八丈島のリゾートホテルのいくつかは廃墟となり、そこを訪れる「廃墟ツアー」も一部で盛り上がっているらしい。
きなこちゃんが泊まったホテルも、もうそちら側の仲間入りをしているのかもしれませんね。
さてお話は、次の南の島へ。